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REPORT: ぶんしんするししんぶんするし

会期:2021年5月8日(土)〜 5月23日(日)
展示:平日13:00〜17:00/土日祝11:00〜17:00(23日15時迄)
クロージングトーク:2021年5月23日(日)15:00〜16:00
企画:してきなしごと、藤原印刷


この企画展は、藤原印刷が2020年からスタートさせた、紙や印刷をもっと身近に感じてもらうための巡回ツアー「いんさつはたのしい2020-2021」の一環企画。会場のひとつとして藤原印刷より声をかけていただき、昨年から検討を重ね、開催に至った。

ギャラリーを埋め尽くしているのは、鏡ではない。鏡に見えるのは、「コンパッソ」と呼ばれる、アルミ蒸着ペットフィルムを紙に貼り合わせることにより鏡面のような光沢・平滑性を持った製紙。独自の光沢とハイクオリティーな面感によりアイキャッチを高める効果があり、化粧品・医薬品・健康食品などのパッケージに多く使われており、実は身近なところに存在している製紙のひとつだ。詩集や詩のプロダクトに用いられる紙は、独特の世界観を演出してくれる、優しく、触り心地のいいファンシーペーパーが選ばれる傾向にある。しかし、詩人たちが実際に接している詩そのものは、この世界で最も自由奔放な、姿かたちを選ばない存在。つまり、「詩=ファンシーペーパー」という“パターン化”は、詩自身にとっては不本意かもしれない。そこで、今回、工業的で、SFチックで、広告効果を求められ生まれた「コンパッソ」を、詩そして詩的企画展のメインペーパーに選んだ。

また、新聞紙のような風合いがある印刷用紙「タブロ」を用いて、タブロイド判詩集を制作。学生時代、大人たちが通勤電車の車内で大きな新聞紙を読む風景を見て、「詩もあんなふうに堂々と大きな紙面で読まれたら清々しい気持ちがするだろうに」と感じた思い出が、アイディアの源。タブロイド判詩集に新作の詩を書き下ろし、すべて逆さ文字で印字。ギャラリー一面を覆う「コンパッソ」に写すと、文字が反転し、読むめるという仕組み。言葉を読むこと、人の声を聞くこと、誰かの想いに触れることに、目を見開き、耳を傾け、心を注いで、接する。すべてがわかりやすくゴールへ直結することが尊ばれる現代社会にあって、来場者には一つひとつ手探りで目の前の現象を自ら感じ、自ら動き、自ら見つけ出す体験をしてもらった。

「コンパッソ」に映るものはすべて、どこかがあるいは全体が歪み、凹み、盛り上がる。その鏡面に立ったとき、自分はどのように映るのか。綺麗に見える自分、強そうに見える自分、足が長く見える自分、いろんな自分を探してみるうちに、「わたし」や「ぼく」のなかに、多種多様な自分がいること、いてくれることの豊かさに気づく。誰もがそのことを認め、愛しいと心から思える、そんな社会、そんな時代がやってくることを願う企画展だった。



Exhibition


Closing Talk Event

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