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そらがしてきなしごとをみつけるまで11 「テリー」

人と違うことを、あなたは、知りなさい
テリーはわたしにそう話した。

テリーは、認知心理学の研究者で、大学1年時の必修科目、英語の担当講師。「ポイントレスかつユースレス」で評判の、金曜、英語のクラス。やることはこう。本を読んで、情報を整理し、マインドマップという形式の図にまとめる。人がそれをポイントレス、つまり「何がしたいか分からない」授業だと感じるのはきっと、課題そのものに自分で何かを感じ吸い取る余白が残されているからで、ユースレスに思えるのは、のは、なんでだろうか。みな、何を持って「役に立たない」と判断するのだろうか。確かに、易しくはない。でも確実に成長が望める課題が毎週出される。学びという行為そのものの核を突く先生じゃないか、と、ひとり教室の最前席で、連ねられていく黒板の文字を眺め感じていた。

世界はボーダーを持つ前混沌だったと言うけれど、当時の私(の頭の中)はまさに混沌そのもの。境界線を一本そっとひけば右が生まれて左が生まれる。簡単で一瞬のこと。でも、その一本を自分の中にどう置けばいいのか、皆目見当がつかなかった。彼の言う「情報の整理」とは、そんな私からしてみれば、最大の課題にしてポッと灯る一縷の光だった。しかも、マインドマップという、ネットワーキングによって広がる情報の関係性を描く方法は、線画のような見た目で親しみやすかった。わかりやすい。0という核があって、それから派生する性質の1と1’が存在する。私という核があり、優しい私と優しくない私が存在する。そうか、ああそうか、いいぞいいぞ。ああ、だんだん自分の輪郭がわかってくる。授業が終わるごとに質問した。たとえ私の持つ疑問がどんなにポイントレスで、ユースレスだったとしても、彼が目を見て答えてくれなかったこと、そんなことは、ただの一度もなかった。それがどれほど嬉しかったことか。テリーの理屈っぽい、からりと渇いた世界への眼差しが心地よく世界をはっきりさせていったのだ。

学期末課題提出前日の夕方、あれはたしか校舎の2階ロビー。手持ちの紙を使い果たしてしまった私は、昼休みに受けた留学セミナーの資料封筒を切り開き、それをつなぎあわせて、時間ギリギリまで線を描き課題を仕上げていた。海外なんて行ってる場合じゃない。目の前の世界が開けていくのを眺める方がよっぽど旅だ、そう思った。

ここではない何処かへ、飛行機や電車は、速く遠くへと連れて行ってくれる。そうやって旅立つ人を何人も見てきた。それでも私は留まる。今この時点で「私」が立っている「ここ」に。だってまだまだ、ここには見るべき絶景がたくさんある。ここに、もうすでに、全てがあるのだから。「君は、人とは違うんだ。それを知りなさいね。」ほりの深い目元。いつもブルーグレーのテリー。ほら、目の前の景色が、いつだって一番美しい。

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